やっぱり彼が好き、そして僕が大御所と思ってたのは彼女。

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音楽機材を積んだ大型トラックを運転している僕は、
長さ1M程度の橋が架けられた駐車場へ左折しようとした。

橋の前に立っている誘導のおばさんが、
『幅が狭いから気をつけて』と大きな声を僕にかけた。
僕は、『大丈夫大丈夫、「東へ西へ」をうたいながら渡れば問題ないよ』と返し、
歌いながら橋に向かってハンドルをきった。
左前輪が橋の入り口をとらえたとき、これは本当にギリギリだと感じた。
僕は軽快に歌いながら、心の中では力を込めて歌いながら、
さらに心の底では「東へ西へ」をうたってるから大丈夫と言い聞かせながら、
橋に両輪が乗ったことを確かめ、ハンドルを握る両腕の脇をきつく締め渡り切った。

僕は控室で衣装に着替え、軽く発声練習をする。
調子はまずまず。
そして、控室にあるベットの中にうつぶせに潜り込み、羽毛布団を首筋まで引っ張りあげた。
首を甲羅から出している亀みたいだ。目の前にはカメラがあり、こちらを向いている。

カメラの向こうで数千人の観客が今か今かとコンサートの開始を待っている。

『僕と小林幸子』のコンサート。

まずは、観客と話をして、場を温める必要がある。
僕はカメラに向かって何か話したようだ。
あまりしゃべりはうまくないけど、失敗しないように、静寂を作らないようにと必死にしゃべった。
途中で小林さんが会話に入ってきて、『歌う前にはどんな準備をしてるの』と聞いてきたので、
僕は答えた。『ヨーグルトが一番ですね。歌う直前とか、歌の合間にも喉を潤すためにヨーグルトを流し込みますね。少しとろみのあるヨーグルト。』
もう一人の僕がどこか遠くで反論する『なんで、ヨーグルト??』。
ここで小林さんが、『じゃあ、そろそろ曲にいきましょう。』と僕を見て、うながす。
僕、『まずは皆さんの好きな僕の曲「東へ西へ」』


イントロが流れる。


観客の大声援。
うつぶせに寝てるけど歌えるかなと不安を覚えつつ、
遠くの僕が答える『そんなことより、これ僕の曲じゃないよね』。

—目が覚めた (最近、井上陽水の曲を数日ぶっ通しで聴いてるからかなぁ)

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